北欧型巨大家具販売店へ行ってきた~IKEA探訪記~


 世界44カ国に展開する大型家具販売店IKEA(イケア)が今年、日本にも進出した。IKEA渋滞という言葉も生まれるほど人気の船橋店に続き、先月は神奈川・港北店がオープン。最近は、仕事場でもプライベートのママ仲間の間でも、なにかにつけてこのイケアという単語が一度は出る。「行った?」「うん、すごい安かったよ」「店に入るのに20分かかった」……etc。とにかく、インテリアに関して、今もっとも旬のショップであるのは間違いない。

 スウェーデン生まれというだけあって、北欧独特のシンプルで洗練されたデザイン、装飾を一切省いた簡素な梱包(こんぽう)や商品解説、日本ではあまり着目されていなかった子ども用家具や雑貨の充実はとくに魅力だ。


 ペーパーナフキンからベッド、ソファまですべて高い基準をクリアした自社デザインなので、統一感があり、廉価品にありがちな質の悪さ、デザイン性の乏しさはない。

 子ども部屋、寝室、キッチンなど、ショールームのようにコーディネートされた部屋がかぞえきれないほどある。そしてそのどれもに「この部屋全部で79,000円」など、驚くような数字の札がかかっている。

 みな、何層にもわかれた巨大な駐車場から降り、店にすいこまれてゆく。入口に置かれた黄色のショッピングバッグを持ち、思い思いの部屋をのぞいてはためつすがめつしている。とてもオシャレで、安くてステキなのだけれど、これと寸分違わぬ同じ部屋が世界44カ国で展開され、そこにいる日本人親子のように、今日もデンマークで、アメリカで、オーストラリアのイケアで、仲よさそうな親子が同じ部屋を買おうかどうか迷っているとしたら、なんともいえない虚脱感におそわれた。

 本来、暮らし方やライフスタイルは100人100通りで、インテリアにスタンダードも世界標準もないはず。

 まるごと同じ部屋通りにはしないまでも、このデザインも機能も価格も魅力的な巨大ショップで、同じ家具や皿やフォークを買って使っている家庭が世界中にあふれているとしたら、私はちょっと背中が寒くなる。げんにスウェーデンでは、「イケアの商品がひとつもない家庭はない」と言われているほど浸透しているらしい。

 組み立て家具を多用し、配送にかかる経費や人経費を節約、梱包はできるかぎり省略化し、あらゆるコストを削減して、世界のどの店に行っても同じ商品が買える。本国のイケアに行った人が「日本のイケアとおなじだから、わざわざ行くことないよ」というくらいだから、本当に変わらないのだろう。

 だとすると、へそ曲がりの私は考える。風土や文化、食習慣や住習慣に合わせて、本当に一番使いやすい形や機能に発達するのが家具や生活の道具というものではあるまいか。そして個性ってなに? その人らしさって……?

 たまたまイケアのあとに、ジャワやバリやミャンマーの少数民族が織った布や民芸品を扱う卸業者のお宅に遊びに行った。1メートルほどの反物を7年かけて織るバリ古来の織物やバティック(更紗(さらさ))、イカット(絣(かすり)織り)をたくさん見たので、よけいに世界規模で大量生産される生活道具と手仕事の差を痛感してしまったというわけだ。

 さて、肝心のお買い物体験だが、うきうきと楽しかったのは事実なのだが、あまりにも広すぎて、後半はぐったり。ラグマットなどの大物は迷って「あとで決めよう」と思ったら、それが間違いで、その場所がどこかわからず、もう戻れないのである。安いので、お皿を1枚買うようにさくっと買えば良かったのかもしれない。だが、一生ものの家具やラグなどを、そんなふうに買ってしまって良いのだろうかという思いもある。実際、1200円だった。汚れたら捨てても惜しくないほどの価格である。もしかしたらあれは一生ものではないのかもしれない。迷うくらいなら買って、ちょっと使って気に入らなかったら処分すればいいと思う人もいるかも。思わず、洗練された北欧家具の100円ショップという言葉を連想してしまう。

 だが、前述の簡単包装以外にもいいところがたくさんあることは書いておかねばならない。ショッピングバッグは紙袋20円、ナイロン袋70円で購入するシステムだ。頑丈で次回に来るときは再利用できるし、マイバッグを持参する人も増えるだろう。客が袋を無駄遣いしなくなる点がいい。店内のディスプレーも北欧らしく、けばけばしくない。布は客自身が切るなど、コスト削減の斬新なくふうが、きちんと価格に反映されている。なにより、デザインがすばらしいので、客全体の生活道具に対するデザインの感覚を底上げさせた功績は大きい。イケアを訪れたことのある世界中の人は、それ以降、安くてもデザインの優れていないものはもう買わなくなるだろう。

 63年前、17歳の少年が始めた家具店は、社員9万人、1兆円企業に成長した。

 私たちがその価格とセンスの良さに慣れきったとき、日本のイケアはどんな戦略と展開で魅力を失わずに輝き続けるのか。今後に注目したい。




2006年10月16日 | トラックバック (0)

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